着衣泳について、水難救助隊のない消防に所属する消防士が講習を実施して、伝えたことと感じたこと。

いつの間にか9月に入ってしまいました。

 

昨日9月1日が防災の日でしたので、地域で防災訓練など実施していることと思います。

最近はシェイクアウト訓練を、市町村単位で実施していたりしますね。

 

うちの子が昼寝をしていたら、防災訓練開始のエリアメールで起こされてしまうというアクシデントが発生してしまいました。

エリアメールの切り方ってあるのかな?

 

そして、夏休みも終わったようですね。

大人になるとあまり関係ありませんが・・・。

 

ということで、今日は秋を迎える前に、夏の思い出の記録を書きたいと思います。

 

内容は、着衣泳の講習について、内容とその感想です。

 

そもそも着衣泳って何?定義はあるの

まずもって、着衣泳とはなんぞや?あたりから話していきます。

 

着衣泳と呼ばれるもの、それは一般的に、服を着た状態で、水に入って泳ぐことを指すようです。

ただ、ここには問題があります。

そんな泳ぎ方、本来は存在しないんです。 競技としては、自由形(クロールがほとんど)、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライの4泳法と呼ばれる種目があります。 でも、オリンピック種目に、着衣泳なんてないですよね?

とはいえ、一般の方々からすると、 「着衣泳やっておけば、何かあったときの対処法がわかるから、安全でしょ!」 という意見が強いようです。

そもそも、小学校でプールの指導が始まったのは、海難事故の影響です。

修学旅行の子どもたちが乗った船が転覆し、その事故のせいで泳げない多くの子ども達が犠牲になってしまいました。

何かあった時の為に、泳げるように教育しなければならない! という流れのもと、小学校の多くが着衣泳に取り組むのは、頷けるところでしょう。

赤十字水上安全法における、指導要領の改訂で、着衣泳を盛り込む形になった

さて、ここで問題です。 着衣泳のカリキュラムって、あるのでしょうか?

話は変わりますが、僕は日本赤十字社の認定資格である、赤十字水上安全法の指導員です。

この、赤十字水上安全法の中では、着衣泳というものは定義していませんでした。 「着衣状態での…」という言い回しは存在していましたが。

「服を着たままで泳ぐ種目なんてない!」という意味です。(個人解釈)

水を利用して安全に楽しむには、服は邪魔、という考えだと思います。

ですが、 水の事故を防ぐための指導をしているのに、着衣泳は指導要領にないってどういうこと? と、一般の方は思うのでしょう。

実際に、多くの学校から依頼があるのも事実です。

そこで、赤十字水上安全法では、今年度のテキストから、正式に着衣泳を指導要領に盛り込むことになりました。

今まで頑なに拒否してきたものの、日本赤十字社が折れた形ですよね。

でも大切な事だと思います。 カリキュラムが増えて困っている指導員がいるのも事実だと思いますが…。

着衣泳で指導するべきことは、「浮いて待て」

では実際、何を指導したらいいんですか?という話に入ります。

実は、僕は昨年、水難学会に所属する方が指導する着衣泳の授業にお手伝いに参加しました。 仮に、Tさんとしておきましょう。

そのTさんは、以前は赤十字水上安全法の指導者でしたが、自分の考えとのズレを感じたため、辞めてしまいました。

Tさんの考えはこうです。

赤十字水上安全法では、事故を防ぐことと、溺れた人を助けることを指導します。

ですが、水の事故で大切な事は、助けが来るまでどうやって自分の身を守るかを教えるべきではないのか?

助ける人を増やす前に、助かるためにどうするかをもっと広げなければ!」

この考えの元、教えるべき大事なことはただ一つ、 「浮いて待て」 でした。

東日本大震災津波の被害に遭った地域の中で、小学校の体育館が巨大なプール状態になった、という話があります。

天井近くまで水位が上がり、渦を巻いていたそうです。

そんな状態の中、亡くなった方もいれば、助かった方もいます。 その境を分けたのが、何もせずに浮いていたか、何かしたか、の違いでした。

水位が下がるまで、かなりの時間がかかったそうですが、その間ずっと浮いて呼吸することだけを考えていた人が助かっています。

逆に、無理に動こうとしたり、声を出してしまった人が溺れてしまったそうです。

以前、テレビでも取り上げていた話題ですので、もっと細かいストーリーについては記載しません。 が、実際に自分の命を自分で守った、大きな成功事案です。

ですので、着衣泳で伝えるべき事は、「浮いて待て」です 実例を交えて最初に話すのがいいかと思いますよ。

今回の講習での実際の進め方を記載。参考にどうぞ

さてさて、伝えるべき大切な事はわかったと思いますので、 ここからは今回の講習をどう進めたかをメモしておきます。

まだよくわからないが指導しなきゃない、という方などは、参考にしてください。

講習時間は、小学校の授業時間なので40分。 時間配分として、 ・導入…5分 ・着衣状態ではどう違うか…5分 ・浮き身…15分 ・道具を使っての浮き身…10分 ・まとめ…5分 くらいだったと思います。

以下、内容を書いていきます。

導入

まずは導入として、水に入る前に説明します。

・着衣状態は、普段通りには動けないということ ・真剣にやること ・助けてもらうために、やることがあるということ

上記3つほどですが、さらっと話します。 大事なのは、2番目の内容です。

Tさんの使っていた手法ですが、 「普段と違い、命を守るための授業。  楽しんでやってもいいが、真剣にやること。  ふざけたら、笛を吹いて中止にします!」

と伝え、少しだけ緊張感を出すと集中してもらえます。

着衣状態での違い

次に、水に入ってもらいます。

歩く、または少し泳いでもらって、水着だけの時とどのくらい違うかを感じてもらいます。

この後、動きづらかった人?とか、 あまり変わらない人?とか、 速く泳げそうな人?とか聞くと、反応を共感しやすいです。

なので、着衣状態では無理に動くと体力消費が激しいから、浮いて待つんだよ! という話につなげることができます。

浮き身

続いて、じゃあ浮く方法は?という説明に入ります。

普通に泳ぐ時の浮き身は、下向きなので、上向きの浮き身をとりますよ、と説明します。

ポイントは、体は思ったより浮かないものだということ。 助かるために長い時間浮いて待つには、口と鼻さえ出せばいいということ。 この2つです。

水慣れが出来ていない(恐怖心が残っている)人だと、難しいはずです。 まずはリラックス、浮くことだけを意識します。 動くことは考えません。

浮き方にも色々ありますが、 ・大の字で浮く ・腕を頭の上に伸ばし、手首を曲げて指先を水面上に出す ・膝を曲げる ・あごを出す など、ポイントは多数あります。

指導する方は、色々と引き出しを増やしておいてください。

ここまでで基本を一旦終えて、次はみんなでプールの淵に沿ってぐるぐると回って歩きます。

そうすると、プールに流れが出来るので、その流れに乗って浮き身をとってもらいます。

流れに身を任せる方が、一般的には浮きやすくなります。 そういう違いなどを理解してもらうのも面白いです。

道具を使って浮き身

ここまで来たら、応用編になります。

ここで、道具の登場です。 小学校とかだと、ペットボトルなどが用意されてるはずですので、利用させてもらいましょう。

体の小さい子は、ペットボトルにあごを乗せると呼吸だけはできます。 大人くらいだと、ペットボトルを枕のように使えば、移動もしやすくなります。

そして、溺れてる人を見つけ、ペットボトルを投げてあげようとする時は、 中に少しだけ水を入れると、コントロールと距離が良くなるというポイントもあります。

余談ですが、今回は5メートルほどの距離に人を立たせ、 実際にペットボトルを2本使ってプールサイドから投げたところ、 空にして投げたペットボトルは良い具合に届きませんでした!

歓声が上がるほど完璧な距離で、自分でも驚きましたw

その他、靴は浮力があるから脱がないこと、 身近な物で、ランドセルは凄く浮くこと、 を話しておきました。 実物が用意できなかったのは反省点ですが…。

まとめ

そして、時間を確認して、講習のまとめです。

・実は、助けに行くにはかなり時間と力が必要になる ・助けに行った人が亡くなることも多い ・助かる可能性をあげるには、自分の努力が必要 ・そのために「浮いて待て」 ・助けに行くのではなく、見つけたら協力者を増やす(119番) ・必ず助けに行きます!

こんな感じで締めると、消防職員らしくていいのではないでしょうか?

今回開催した講習のまとめと個人的な感想

というわけで、今回は着衣泳についてまとめてみました。

僕個人的な感想と、気付いたことを何点か挙げておきますと、 ・40分で何を教えられるかが難しい ・子どもたちの感想を聞けなかったのは残念 ・先生から好評だったのは、流れと競争

やりたいこと、伝えたいことはいっぱいあっても、まとめるのが難しかったです。 せめて1時間はとりたいところです。

話ながら、時間ばかり気にして、まとまらないという悪い癖が出てしまいました…。

そして、終わった後の子どもたちからのフィードバックが欲しかったです。

自主開催は初めてだったので、何か心に、体に残せたかは気になるんですよ…。

そして終了後、2人の先生からはお話を伺えました。

一人は、みんなで歩いてプールの流れを作ると、凄い勢いになって驚いたということ。

そこですか?!と言いたかったんですが、まぁインパクトを残せたのは良かったと捉えております。

そしてもう一人の先生からは、児童と競争してもらえないかということ。

泳ぐつもりはなかったので、ゴーグルなしで勝負することになりましたが、さすがに勝ちました。 大人の意地ですね。

むしろその日で一番盛り上がったのはこの時間でした。 今日の講習は何だったんだ…w

でも、間近でレベルの高いアスリートの技術を見てもらえたのは、いい体験になったことでしょう。 …と、言えるほどの実力ではないんですがね。

では、今日はこの辺で。